整形外科での診察が終わり、また1時間近く待ってようやく神経内科での診察の番が来た。
診察室へ入ると、50代くらいの男の先生。
さっき整形外科で説明したことと全く同じことを説明する。
そしてさらにかなり細かく問診を受けた。
それから先生が私の腕の動きを確認する。
手の動きや指の動きも確認する。
顔の動きも確認する。
私の顔の動きを見て、先生が顔面麻痺もあるね、と言った。
私は子供の頃から、いーーとすることや眉間にシワを寄せることができなかった。
それは母も知っていたし、なんでできないのよ、で終了ー。なことだった。
モテる秘訣は笑顔だと知ったとき、私の笑顔は上の歯6本がやっとくらいしか見えないことに気付いた。
ニコっと笑った時に、上の歯がキレイに見えない。
そのことに気付いてから、割り箸をくわえていーっとする表情筋体操などいろんなことを試してきた。
接客業10年、笑顔づくりの朝礼や研修が本当に悲しくて苦痛だった。
ネットで調べていると、私が笑顔を作れないのは表情筋を動かせていないということだと分かった。
そして下手な笑顔の例よりもはるかに口元が動かせていない私は顔面麻痺に近いのでは、と思っていた。
私には顔が大きいとか、足が短いとか、様々なコンプレックスがあるが、笑顔を作れないことが何よりも壮絶なコンプレックスだった。
顔面麻痺であるのではないかという鈍い表情がとてもコンプレックスで、どうにかできないかと鍼灸師さんに相談し通っていたこともあった。
ちなみに笑顔も作れないけど、うーと口をすぼめることもできない。
口角から空気が漏れるので、あっぷっぷで頬をプクーと膨らませることもできない。
ずっと医療機関に相談してみたいという思いがあったが、どうにもできずにいたこの表情筋を人よりはるかに動かせないという悩みを、この時初めて病院のお医者さんに話すことができた。
私はこの時、長年の強烈なコンプレックスだった私の顔は医学的に顔面麻痺だったんだ、と少しほっとしてしまった。
診察は続き、先生が負荷をかけながら、こう動かしてください、こう動かしてください、といろいろ動かしてみる。
そして診察台に横になり、足の動きも確認する。
ハンマーみたいなものでコンコン叩いたり、音叉を当てて振動が消える瞬間を言ったり、筆でこしょこしょしたり、
ひえぇ世の中にはこんな検査もあるのかぁと思っていた。
そこで初めて足の筋力もなくなっているということを知る・・・。
「転んだり、階段の上り下りができなかったりしたことないですか?」
そういえば先月だったかバイトへ向かうとき、舗装されてない道を走っていたら、こける瞬間が脳内スローモーションで盛大に前のめりにこけたことがあった。
「先月くらいこけました。」
「筋力なくなってるの腕だけじゃないね。脚も筋力なくなってるよ。」
・・・・・・・え、
と言われても・・・・・、
1日1万歩歩くような仕事してるし、バイトもめちゃくちゃ繁盛店で動き回ってるし、だけどすごく疲れやすいのを実感しててどうにか体力づくりしようと、朝の犬に散歩時には公園でスクワットもしてる。
脚の筋力と言われても全くピンとこない。
そして今度は筋電図の検査を受けましょうとのこと。
さっきMRIも受けたし今日の診察代はいくらになるんだろう・・と頭をよぎりながらも、さくさく検査が受けられて大きい病院へ来てよかったと思いながら、今度は2階にある検査室のあるエリアへ向かう。
筋電図の検査はあまり待つことなくスムーズだった。
これまた50代くらいか話しやすい検査技師さんで、こんな状況なんです、と世間話な感じで診察台に横になり検査が始まる。
検査技師さんも私の表情を見てすぐ、「顔面麻痺もあるね」と言った。
筋電図の検査は何かをくっつけて電流を流すというもの。
腰が痛いときに低周波治療器にお世話になっていた私は、わりと平気。
両腕、両足、筋電図の検査が終わり1階の神経内科へ戻る。
また診察室へ呼ばれ検査結果の説明を受ける。
パソコンで筋電図の波形みたいなものを見ながら、
神経原性のもので、おそらくギランバレーでしょう、入院できますか?と。
???????入院??
ギランバレー???
「え??入院するようなことなんですか?ギランバレーって何ですか?」
「女優の大原麗子さんなんかがギランバレーだったんだけど。入院できますか?」
「入院はちょっと・・・。明日から楽しみにしていたことがありまして、それ以降は24日まで仕事が詰まってるんです・・・。入院しなきゃいけないんでしょうか・・?」
あまりにも想定外の入院宣告にうっそでしょー!と思いながらも、入院という自分の人生にあまりになかった事象に少しの興味を持ってしまったのも事実・・。
「ギランバレーだと髄液検査で分かるから、その検査結果見てから入院するか決めてもいいよ。入院するとしたら1週間くらいかな。」と先生。
明日からライブで福岡遠征だし、その後は仕事が詰まっている。
でも私は1年の欧州ワーホリ留学で、自分よりも仕事を優先してしまうような日本人的感覚に疑問を持つようになっていた。
神経に問題あるかもしれないって、神経ってダメになったら元に戻らないんじゃないの?
仕事よりも自分の体のほうが断然大事だし!と瞬時にいろいろな思いが頭をめぐる。
この時点で確か14時くらい。
この時間なら会社に今の状況説明しておいて、検査結果次第でまた相談してみたらいい。
よし、そうしよう。
「ひとまず、会社に相談してみていいですか?そして検査結果次第で入院するか決めます」
「分かりました。検査の準備もあるので、また呼びますね」
診察室を出て、スマホを見ると親から「病院どうなの?」LINEが入っている。
次にいつ呼び出されるか分からないし、まずは会社に連絡しなきゃなので、
“入院しなきゃいけないかも。ギランバレーとかいう病気っぽい”とだけ返信して会社に電話する。
腕が動かなくなって病院に来ていろいろ検査したらギランバレーかもしれないから入院を勧められ た、
まだ検査が残っていてその検査しだいで入院しなければいけないかもしれません、
もし入院しなければならなくなったとしたら、少しでも早めに報告しておいたほうがいいと思って、こんな状況ですという電話をさせていただきました
というような電話をすると、
「それって絶対に入院しなきゃいけないの?」
・・・・・・。
そりゃ、アサインされてた仕事に穴をあけるのは多大な迷惑であると分かる。
絶対に今すぐ入院しなさいと強く言われたわけでもない。
でもただでさえハードな内容に、移動できるのか?の詰め込みスケジュール。
万が一に病気だったら、体を酷使するようなことはしたくない。
仕事は自分の体よりも最優先すべきことだと思わないし、自分を犠牲にして働くほどの対価を貰っているわけでもない。
「本当に申し訳ありません・・・。まだ入院しなければならないと決まったわけではないので、検査結果が出てまた連絡します」
呆然。
まぁ会社としては当然の反応でもあるし、そこまで想定外でもない。
でもこの反応で仕事に対して気持ちが離れてしまったのは否定できない事実。
それから再び検査に呼ばれるまで、スマホで必死にギランバレーについて調べる。
筋力の低下、顔面麻痺、急速に進行、速やかな治療が必要、、、、なんとなく当てはまるような当てはまらないような。
でも私の症状ってもう夏頃から出てるし、この2週間で急速に進行したわけでもない気もする・・。
てか、髄液検査って、もしや背骨に針さす痛いって有名なやつ???
えええええぇぇ、あれってものすごい痛いんじゃないの???
あぁどうなるんだろう・・・・。
待ちながらいろんなことをぐるぐる考えている間に、入院するかもしれないという娘を案じて母が病院へ到着。
すぐに検査に呼ばれると思っていたけれど予想以上に待ってから、看護師さんに呼ばれ診察室とは別の部屋へ案内された。